
妊娠中のアルコール類の摂取が、胎児にどのような影響を及ぼすかご存知ですか?妊活中も、アルコールの摂取を控えるべきなのでしょうか?
この記事では、妊活中・妊娠中のアルコール摂取が及ぼす影響や適切な摂取量があるのかについて紹介します。お酒を飲むにが好きな方、日常的に摂取している方、付き合いで避けられない方には、特に参考になると思いますので、是非最後まで読んでいってください。
アルコール摂取量の目安(一般)
厚生労働省の示す指標では、節度ある適度な飲酒は1日平均純アルコールで20グラム程度の飲酒ということになります。また女性や高齢者、飲酒後にフラッシング反応を起こす人は、これより飲酒量を少なくすべきであると推奨しています。
上記のように、厚生労働省が示す目安は、20g/日です。
これがどのような値なのかを知りたい方は、以下の例をご覧ください。
※根拠: 日本人や欧米人を対象にした大規模な疫学研究から、アルコール消費量と総死亡率の関係を検討して割り出された数字。
アルコール摂取の基礎知識
妊活中または妊娠中のアルコール摂取について、スキップしたい方はこちらをクリック。
ここからは、一般的な成人に対するアルコール摂取の基礎事項について、厚生労働省の資料(著 樋口 進)を参考に解説します。
《アルコールの吸収》
アルコールは他の食品と異なり、消化を受けることなく吸収されます。一般的には胃からの吸収に比べて、腸からの吸収は速いとことが知られ、飲酒後1~2時間でほぼ吸収されてしまうといわれています。胃・腸から吸収されたアルコールは、門脈という太い静脈に入り肝臓を通過して、全身の臓器に流れていきます。
空腹時に飲酒をすると、アルコールが胃を素通りして小腸に流れ込むので、アルコールの吸収が速くなります。空腹時に濃い酒を飲むと、アルコールの吸収が加速されて、血中濃度の上昇がさらに速くなるといわれています。これに対して、食事やつまみと一緒にゆっくり飲酒すると、アルコールが胃に留まる時間が延びます。そのために吸収が遅くなり、血中濃度も低く抑えられます。飲酒時は、このような飲み方が推奨されます。
《アルコールの分解》
体内に取り入れられたアルコールの大部分は、以下のような酸化により分解されます。
STEP1. アルコール(エタノール) → アセトアルデヒド
STEP2. アセトアルデヒド → 酢酸
STEP3. 酢酸 → 水 + 炭酸ガス
STEP1は、アルコール脱水素酵素(ADH)
STEP2は、1型アルデヒド脱水素酵素(ALDH1)…補助的役割
2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)…メイン
酸化過程の最初の2ステップは主に肝臓で行なわれます。酢酸は血液に乗って肝臓を離れ、筋肉や心臓に移動してさらに分解され、最終的には炭酸ガスと水になります。この間に1gのアルコールから、約7カロリーの熱を産出します。
《フラッシング反応》
フラッシングとは、飲酒後に顔面紅潮・動悸・頭痛などの反応のことを指します。日本人の約半数は少量の飲酒でもフラッシング反応を起こすと言われています。
アルコールの分解に主要な役割を果たす前記のALDH2は、遺伝的にその活性の強さが決まります。この酵素の活性が弱い人が飲酒をすると血中のアルコール濃度が上がり、フラッシングを起こします。
《アルコール分解速度》
飲酒後血中濃度のピークは30分~2時間後に現れ、その後濃度はほぼ直線的に下がります。血中のアルコール消失(分解)速度は個人差が非常に大きいことが知られています。アルコール約20gが分解されるのに掛かる平均時間は、男性では2.2時間、女性では3時間程度かかります。
アルコールの消失速度に影響する因子は、「肝臓の大きさ」です。そのため、体が大きい人の方が早く、一般的には女性より男性の方が、消失速度が早いです。
妊婦のアルコール摂取
妊娠中の母親の飲酒は、胎児・乳児に対して低体重・顔面を中心とする奇形・脳障害などを引き起こす可能性があり、胎児性アルコール症候群と言われます。胎児性アルコール症候群には治療法はなく、また少量の飲酒でも妊娠のどの時期でも生じる可能性があることから、妊娠中の女性は完全にお酒を止めるようにしましょう。
《胎児性アルコール症候群(FAS: Fetal Alcohol Syndrome)》
- 胎児性アルコール症候群は飲酒量に比例してリスクも増える
- 大量に飲まなくても少量飲酒での胎児性アルコール症候群の報告例がある
- 基本的には妊娠全期間を通して何らかの影響が出る可能性がある
- 胎児性アルコール症候群には治療法はないため、唯一の対処法は妊娠中飲酒しないこと
- 広い範囲での影響: 出生時の低体重や奇形、ADHDや成人後の依存症リスクなど
- 非遺伝性の精神発達遅滞の最多の原因: 出生数1000人あたり0.1-2名
診断基準はこちら。
「1. 妊娠中の母親の飲酒」
「2. 特徴的な顔貌」
「3. 出生時低体重・栄養とは関係ない体重減少、身長と釣り合わない低体重などの栄養障害」
「4. 出生時の頭囲が小さい・小脳低形成・難聴・直線歩行困難などの脳の障害」
妊活中のアルコール摂取
妊活中の飲酒の影響については、こちらの文献(BMJ. 2016 Aug 31;354:i4262.)を参考に解説します。
《研究内容詳細》
- 不妊治療を受けていない妊活中の6,120人(21-45 years)が調査の対象
- 飲酒量(中央値)は週2杯
- 観察期間中に妊娠が成立したのは、4,210人
- 観察期間: 1 June 2007 to 5 January 2016
- 飲酒量が14杯/週以上の人は、受精率に影響する可能性があることを示唆する結果
- 妊娠のきわめて初期の段階では受精卵が不安定なため、妊娠を希望するのであれば、飲酒は控えるべき
以上のように、妊活中は完全に断酒する必要がないことがわかります。しかし、妊娠初期の受精卵の発育への影響も考えられるので、飲酒するにしても、受精時期は完全に避けるようにコントロールする必要があると考えられます。
妊活中・妊娠中のアルコール摂取まとめ
上述の通り、アルコールが良い働きをするものでは無いことははっきりしています。特に、妊娠中の女性の飲酒は、量に関わらず、胎児に対して影響があることはわかっています。極力、飲酒は避けるようにしましょう。