
体外から侵入する外敵に対する防御システムのはずの”免疫”が不妊症を引き起こす場合があるのをご存知ですか?
この記事で分かること
- 免疫性不妊とは何か。
- 抗精子抗体と不妊の関係。
- 不妊の原因に占める割合
- 検査方法と治療方法。
- 筆者夫婦の実際の検査結果
目次(ジャンプできます)
免疫とは何なのか?
※『抗精子抗体』についてスキップしたい方はこちらへ。
※過去の『免疫』の記事はこちら。
免疫の意味と種類
”免疫”とは読んで字の如く、
「病原体が侵入してきても発病しないように働く生体防御機構 = 疫から免れる」
を意味します。
- 自然免疫: 体の外部から侵入してきた病原体や異常をもつ自己の細胞を排除するため、最初に働く防衛システム。活躍するのが、樹状細胞、好中球、マクロファージ、NK(ナチュラルキラー)細胞。
- 獲得免疫: 自然免疫の次に働く2段階目の防衛システム。体内の病原体の死骸やその断片を取り込みその病原体の情報を記憶しておき、次に同じ病原体が侵入してきたら、抗体の放出などの強力な攻撃を仕掛けることができるシステム。活躍するのがB細胞やT細胞などのリンパ球。
しばしば、獲得免疫のことを指して、”免疫”と呼ぶことがあるようです。
抗体とは
抗体は特定の物質(抗原)に対して結合する働きを持つイムノグロブリン(免疫グロブリン)の総称です。
イムノグロブリン(英名:immunoglobulin)の名称から、Ig(アイジー)を頭文字として、以下の種類がある。
Igの種類
- IgG: 血液中で最も多い抗体で、胎盤を介して赤ちゃんに供給され、赤ちゃんを守る。
- IgM: 抗原の侵入に対して最初にB細胞から産生され、一時的に増加する。
- IgA: 血清、鼻汁、唾液、腸液、母乳中に多く存在し、風邪などの病気へのかかり易さに関係。特に母乳中のIgAは新生児の消化管を病原体から守る。
- IgE: 血中に微量しか存在せず、寄生虫感染やアレルギーと関係がある。
- IgD: 血中に微量しか存在せず、抗体産生の誘導に関わるとされている。
→ここで重要となるのが、IgGとIgMです。
抗体の役割
- 中和作用: 病原体などを異物に結合して無力化すること。
- 補体経路の活性化: 溶菌作用をもつ”補体”を活性化させ、細菌や細胞に穴を空けて殺傷する。
- オプソニン化: 貪食細胞による食作用を促進させる。
抗体による中和作用は、前記の獲得免疫の流れに中で働きます。
免疫寛容
1種類のB細胞が産生する抗体の種類は1種類です。
様々な抗原に対して次々とB細胞が作られ、記憶されるので、多種のB細胞が存在します。
中には、自己の体の成分を”抗原”として認識する細胞が作られることがあります。しかし、このように自己の成分を認識するB細胞やT細胞は、成熟の過程で排除されたり、免疫反応が生じないように制御されています。
このような仕組みのことを、免疫寛容と呼びます。
要するに、自分自身の体内の成分(タンパク質、糖質、細胞、臓器など)に対しては、前記のような免疫システムは働かない、と言うことです。
※稀に、自己の正常な細胞や組織を過剰攻撃してしまう疾患(自己免疫疾患)があります。
【余談】胎児に対する母親の免疫機構
・寛容過程で、抑制性T細胞が関わっている。
・抑制性T細胞は、免疫機能を抑制する機能を持っている。
・さらなる抑制性T細胞の分化も誘導する。
・同じ父親からの第二子を妊娠した場合は、記憶されている情報があるので、素早く抑制性T細胞が産生され、免疫寛容となる。
免疫性不妊
前述の免疫反応が原因で、受精や着床を妨げる場合があります。
本来、外部から侵入してくる外敵への防衛システムのはずですが、何らかの異常が生じ、”精子”や”卵子”に対する抗体が産生されてしまうのです。
大別すると2種類あります。
①抗精子抗体:
- 凝集化 →精子同士をくっつけて凝集塊を作ってしまい、子宮への侵入が妨げられる。
- 不動化 →精子の運動性を奪い、受精能力がなくなってしまう。
- 男性でも →男性自信も抗精子抗体を持つ場合があり、凝集化や不動化を招く。
②抗透明体抗体:
- 卵透明体 →発育卵母細胞,排卵卵子,着床前初期胚の周囲に存在する糖タンパクでできた膜。
- 透明体の役割 →多精子受精阻止, 動物種の認識,先体反応の誘起など。
- 抗体の影響 →受精の阻害、精子の先体反応の誘起障害、透明帯からの胚の脱出障害など。
本記事では特に、抗精子抗体による不妊について紹介します。
抗精子抗体をもつ不妊女性の割合
不妊症の原因として知られる”抗精子抗体”ですが、割合はどれほどなのでしょうか?
抗精子抗体による精子不動化の出現頻度
対象 総患者数(人) 陽性者数(人) 検出率(%) 原因不明不妊者 955 123 12.9 原因判明不妊者 2418 31 1.3
上記の文献によれば、原因不明不妊の不妊症患者を調べると、12.9%の人に、精子不動化抗体が認められたことを示します。
2007年の文献でデータは古いですが、意外と高頻度で出現するものだと思われます。
抗精子抗体の検査と治療法
検査方法
検査方法として知られるのは、”精子不動化試験(Isojima法)”です。
試験方法
どの程度障害を受けたかを示す「SIV値」( Sperm Immobilization Value )を算出。
SIV値:
- 1.40以下 陰性
- 1.41~1.99 判定保留
- 2.00~20.00 陽性
- 20.01以上 強陽性
治療方法
昔は、いくつかの方法が試されていたようですが、
今では、IVFーET(体外受精)が第一選択となるようです。
実際は、クリニックや先生の方針によって違ってくるのだろうと思います。
例えば、抗精子抗体の「SIV値=5」のような人は、弱陽性と判断されるかもしれません。
その場合、”人工授精”を試す場合もありますし、通常のタイミング治療を試みる場合もあると思います。
一方で、抗精子抗体の「SIV値=30」のような人は、強陽性と診断された人は、精子が受精に向けて子宮内を動くことができないので、体外受精などの治療を採用する可能性が高いと言えます。
筆者夫婦の実際の検査結果
筆者夫婦の実際の検査結果の詳細は体験記に詳しく書いていますので、ここでは簡単に紹介します。
検査結果
強陽性の基準が「SIV>20」であることを考えると、これは完全に”強強強強陽性“ってやつですね。
その後の治療や経過については、体験記の方で紹介していますので気になる方はお立ち寄りください。